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1999年07月23日

まるくて滑らかで鮮やかにどっしりと愛らしい

http://www.apple.com/ibook/
残念ながら「たれぱんだ」のことではない.
「たれぱんだ」もかなりイイ線いっているが,鮮やかではない.

昨日 Apple から噂の iBook が MACWORLD Expo/NY で発表された.

いつまでも暫定のままの CEO,Steve Jobs が
その基調講演で誇らしげに示したチャートがある.
Market の target segment を示す絵だ.
横軸をユーザレベル (consumer, pro),
縦軸をソリューション種別 (portable, desktop)
に振って全体を4つの象限に分けた.
「これで Apple はすべての領域を埋めた」
Jobs は Consumer portable に位置する iBook を
指さして語った.そして拍手喝采.

確かに分かりやすい.シンプルなのはいいことに決まっている.
ちょっとくらい動作周波数が変わったり搭載記憶容量が増えただけで
製品名の末尾がちょろちょろ活用して長くなる他社と比較すれば
すがすがしいほどに明快だ.iMac は度重なる revision up が
あったにも関わらず Apple は単一の製品であるという姿勢を貫いているし,
それが製品の不透明性につながると非難する声もあったが,個人的には
その強引なまでに「シンプルであることを主張する」姿勢は嫌いではない.

しかしである.
Jobs のようにカリスマ的なプレゼンテータにかかると
そのシンプルな構成の製品でマーケット全体を網羅できるかのように
錯覚してしまうが,ちょっと落ち着いて考えればそんなことはぜんぜんない.

そもそも market segment の縦軸に自社のソリューション種別が来ているのは
おかしい.横軸は確かに market を分割するパラメタになっているが,
それなら縦軸も market を分割する他のパラメタにするべきだ.
年齢とか性別とか仕事とか収入とか居住区とかライフスタイルとか….
そのうえで「どの領域の誰に対しては何」というソリューションを
示す絵になっていなければメッセージとしての説得力は弱いのである.
Market segment は 購買決定要因 (Key buying factor: KBF) が異なる
領域をはっきりさせるように軸の設定をしなくてはならない.
自前のソリューション種別を片方の軸にすればそりゃ全体が埋まるに決まっている.

他のいろいろな評価軸で切ったチャートを実際に思い浮かべてみると,
Apple の四つの製品群 iMac, iBook, pMac, pBook (こう書くと座りがいい)は
非常に狭いセグメントの消費者にしか対応していないことが簡単に分かる.
Jobs は敢えて強調していないように努めているという印象を受けるが,
現在の Apple が成功しているのは実は target segment を絞りに絞って
とにかくそこでは一人勝ちを狙うという戦略をきっちりと実行しているからなのだ.

だまされてはならない.
Apple は絨毯爆撃をしているわけでは決して無く,
きわめて高精度なピンポイント爆撃をしているのである.

この戦略はある問題と事件を引き起こした.

問題とは,残念ながら私を含む多くの昔ながらのマックユーザが target segment から
見事にはずれてしまっているということである.今まで自宅では Mac ばかりを使ってきた
結構なロイヤルカストマのつもりだったが,当面は蚊帳の外だ.

iMac はモニタが小さすぎるし,iBook は重すぎる.
pMac では今の周辺機器を使うには追加コストがかかるし,pBook は高すぎる.

iBook に対しては批判めいた意見はいくらでも飛び交っている.
PC Card slot, SCSI, Firewire がない,メモリやHDが少ない,
CD-ROM Drive がある,でかい,おもい,液晶の解像度が低い….

まあそれはそれは右を向いても左を向いても
同じ様なコメントばかり.でもこれはしょうがないのである.
単に target 中にわれわれが入っていないだけなのだから.

例えば,独身女性には iMac が,学校には iBook が,
デザイナーには pMac が,建築家には pBook がそれほど問題もなく
受け入れられるだろうし,そうした特定の segment が Apple の狙いなのである.

ではなぜわれわれは外野のくせに文句を言うのか.
外野なら黙っていればいいではないか.

iBook が本当に魅力無いから? ちがう.
Apple は間違っていると思っているから? ちがう.
ターゲットにされていないから? ちがう.

本当は iBook たちが欲しいからなのだ.自分には
全然役に立たないのは分かっているのに欲しいのだ.
target segment に入っている人々がうらやましいのだ.
だからひがんでいるのだ.それで文句を言う.

もうこれは事件である.

私も人一倍文句を言いながらも,もう何色にしようかと考えている.
どうせ持ち歩けないのに.
自分に必要なのはノートブックでは無くて
モバイルなのだということは痛いほど分かっているくせに.
どうせ Airport が威力を発揮するほど広い家に住んでいないくせに.
自分は蚊帳の外なのに.

たいして役に立たないのに,どうしても欲しいもの.
あ,これじゃ「たれぱんだ」と同じではないか.

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